私は社内でAI(人工知能)導入の提案イメージを作成したり、UI(ユーザーインターフェース)をデザインしたりしているデザイナーです。元々広告業界で長らくグラフィックデザインを経験してきましたが、Arithmerで1年以上業務に関わる中で感じた、デザイナーから見たAIとUIデザインの関係について書いてみたいと思います。
一般的に、AIとUIは現代のテクノロジーにおいて非常に密接な関係にあります。AIの進化はUIのあり方を大きく変え、より賢く、使いやすいものへと導いています。
では、AIを使った業務用システムのUIはどうでしょうか。ここでは、特にモノづくりの現場での関係性を具体的に考察してみましょう。例えば、工場におけるAI Agent(AIの中でも会話ができ、タスクを実行できるシステム)を活用した業務用システムUIの進化は、生産性向上、品質管理、安全性向上など、多岐にわたる面で革新をもたらしています。具体的な進化の方向性として、次の5つが挙げられます。
1.リアルタイムな状況把握と直感的な可視化
- カメラデータとの連携:工場内の様々なカメラから収集されるデータをAI Agentが統合的に分析し、異常の兆候や生産ラインの状態をリアルタイムに可視化します。これにより、本社などの遠隔地からでも工場の状況を正確に把握できます。
- ダッシュボードの高度化:AIが重要な指標を自動的に抽出し、異常値や改善点を強調表示するインテリジェントなダッシュボードが実現します。従来の、全情報を表示して熟練した担当者でないと操作できないUIと比較し、管理者でも複雑なデータ分析を行うことなく、迅速な意思決定が可能になります。
2.自然言語による操作と対話
- 音声操作によるハンズフリー作業:作業員は、AI Agentに音声で指示を出すことで、機械の操作、データの入力、情報の照会などを行えるようになります。両手が塞がっている状況でも、安全かつ効率的に作業を進められることが期待されます。
- チャットボットによる問い合わせ対応:設備トラブルや作業手順に関する疑問点を、AI Agentに自然な言葉で質問できます。AIは過去のデータや知識ベースから適切な回答を迅速に提供し、ダウンタイムの短縮や作業効率の向上に役立ちます。
3.予知保全と異常検知の高度化
- 機械学習による故障予測:センサーデータや過去のメンテナンス履歴をAI Agentが学習し、設備の故障時期や発生箇所を予測します。これにより、計画的なメンテナンスが可能になり、突発的なライン停止を防ぎ、コストを削減できます。
- 画像認識による不良品検出:AI Agentが製品画像を解析し、目視では見落としがちな微細な不良を自動的に検出します。品質管理の精度が向上し、不良品の流出を防ぐことができます。
4.作業支援と教育のパーソナライズ
- 作業手順のナビゲーション:AI Agentが熟練者のノウハウに基づいて、最適な作業手順をリアルタイムにナビゲーションします。これにより、新人作業員の教育期間を短縮し、作業品質の均一化を図ることができます。
- 個別指導とフィードバック:作業員の習熟度や過去のミス傾向をAIが分析し、個別に最適化された指導や改善点を提供します。その結果、作業スキルを効率的に向上できます。
5.安全管理の強化
- 危険予知とアラート:作業環境のセンサーデータや映像データをAIが解析し、潜在的な危険を予測してアラートを出します。事故の発生を未然に防ぎ、安全な作業環境を実現していきます。
- 作業員の行動モニタリング:AI Agentが作業員の行動をモニタリングし、危険な行動や不安全な状態を検知した場合に警告を発します。これは安全意識の向上と事故防止に貢献できます。
今後の展望
今後は、工場内の様々なシステムやデータがAI Agentによってより深く統合され、サプライチェーン全体を最適化するような役割を担うことが期待されます。また、より人間らしい自然な対話が可能になり、まるでベテランの熟練工が常にそばにいるかのような、高度な作業支援が実現するでしょう。
その際、現場の作業員には、直感的に使いやすいタッチモニターや、音や光でアラートを出せる機器など、より作業に集中できるUIが必要です。一方、管理者には、欲しい情報を素早く、厳選して提供してくれるUIが必要になってきます。
工場におけるAI Agentの進化は、単なる業務効率化だけでなく、より安全で、高品質で、持続可能な生産体制の構築に貢献していくと考えられます。働く人と管理している人を密接に繋いでいくことで、働き方をより良い方向へ導き、社会の課題を解決していくこと。これも業務用システムにおけるUIデザインの可能性の一つだと私は考えています。

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